独身時代の私は、妻がディズニーランド大好き人間であることを知って、パスポートを2枚買った。たかが遊園地に行くのに2人で1万円! 高すぎる(私はケチです)!
しかし、その効果は確かだった。普段は「会いたい(私)」「必要ない(妻)」で、サンザン押し問答するのに、「ディズニー」と言っただけで、妻は「行くわ」とアッサリOKした。
当日は1時間待たされた。それはいつものことだから、なんでもない。問題は、ディズニーランドに行ってからだった。
妻はこういう場所では、子供になれる。歩いているミッキーやドナルドのキグルミに気軽に近づき、私に写真を撮れという。私にも彼らと並んで写真を撮ってやるという。
「いいよ」そんなときどういう顔をしていいか分らない私は、恥ずかしくて後ずさった。
「いいじゃない。せっかく来たんだから」「いいったら」妻はムッとしたようだった。
ディズニーランドでは、シンデレラ城ツアーのように、「なりきり」を要求されるアトラクションが多い。妻は簡単に「なりきりモード」になって楽しんでいる。私はできない。できない私に気づいた妻は、「何やってんのよ」という目になって責める。
「○○さんや、□□君と来たときの方が、ずっと楽しかったわ」妻の職場仲間の男性名だ。私に嫉妬はない。というのは、妻が男と女の関係で付き合っているのは、私を含めて誰もいないことを知っていたからだ。しかし、やはり寂しい。すごく寂しい。
食事も楽しくなかった。私は待たされることや混んでいる場所が嫌いで、空いているレストランを選んだ。空いている理由は簡単だ。「おいしくない!」妻に言われるまでもなかった。「だから、わたしがあっちにしようと言ったのに」ますます気まずくなる。
トドメは、キャラクターショップだった。妻はそういう店に入ったら、1時間2時間はあっという間に過ぎ去るタイプ。私は5分で飽きてしまう。夢中で見入る妻の後から、イライラしながらついて行く私。
「ねえ、これ、レジで聞いてきてよ」「え?」「だから、この値段、レジで聞いてきて」妻が何かのヌイグルミを私の手に押し付けたとき、私のどこかのフクロが切れた。
「イヤだよ。自分で聞けばいいだろ」それは、私が初めて妻に反抗した瞬間だった。
「なんですって?」「値段くらい自分で聞けばいいじゃないか」後には引けなかった。
「へえー、そういうこと。そんな簡単なこともやってくれないの。ミッキーと写真を撮るのもイヤ。イベントで楽しむのもイヤ。美味しいもの食べるのにちょっと待つのもイヤ。おみやげ買うのもイヤ。だったら、なんでディズニーランドなんかに来たのよ?!」
君に会いたいためだ。
そう言いたかった。言えなかった。代わりに私はこう言った。「だから後悔してるよ!」
「それなら帰ればいいでしょ!」「帰るさ!」私はクルリと後ろを向いて、店を出た。そのままの勢いでディズニーランドを飛び出した。もちろん妻は追いかけてこなかった。
悔しかった。そしてディズニーランドで妻を釣ろうとした自分が情けなかった。
振り向くと、夕闇に浮かぶ華やかな灯りが、何故かにじんで見えた。
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