ホッと一息の樹 titled by おたかさん
[別冊]ホ ッ と 一 息 の 樹(記)

ホッと一息の樹」から抜粋したものを[別冊]としてまとめています。
初出:2000/04/21(金)
Aさんとの再会

私と妻との交際期間は、もう10年を過ぎていた。2人とも30代半ばになっていた。
久しぶりに私たちは会い、空港に、ある家族を見送りに行った。Aさん一家だ。
Aさんは妻の妹分みたいな6つ下の友人で、私も1度だけ会ったことがある。それは私と妻との最初の「デート」で、妻は4時間も遅れて来たあげく、2人っきりになるのが嫌で、Aさんを連れてきたのだ。
縦に長い妻とは対照的に、Aさんはぽっちゃりとした小柄な少女で、どういうわけか私のことを気に入ってくれたようだった。彼女は、自分がどういう理由で連れてこられたのか深く考えなかったようで、私と妻とがすぐにも結婚するかのように喜んでいた。
会ったのはそれだけだったが、手紙を時々くれては「早く結婚出来るといいですね」と励ましてくれた。私もまるで妹のように思えて、「頑張ります」と返事を出していた。
そのAさんは、3年後に仕事でアメリカに行った。そして、そこでイギリス人の男性と知り合い、結婚した。
2人の子供のお母さんになったAさんは、家族とともにしばらくぶりで、日本(東北)に里帰りしていた。成田到着の日は、私も妻も仕事でどうしても抜け出せなかったが、帰るこの日は何を置いても会いたかった。
空港で再会したAさんは、10年あまりの歳月をおいて、少女から立派な女性に成長していた。ご主人は6フィートもある、いかにも「イギリス人」という感じの真面目そうな金髪碧眼の人だった。妻と子供たちを見る目は、誇らしげで優しかった。そして2人の子供たち(4歳娘、2歳息子)は、たとえようもなく可愛かった。
妻とAさんは、積もる話に花を咲かせ、私もブロークン過ぎる英語で、何とかご主人と話した。別れの時はあまりにも早かった。
Aさんは、私たちのことを心から心配していた。「お姉さん、お兄さん、一日も早く結婚してね。2人はきっと素晴らしい夫婦になるから」その言葉に、私たちはそれぞれの思いで、微笑みを返した。
Aさん一家をゲートで見送ったあと、妻が小さな声で言った。
「わたしたち、これから、どうなるんだろう」
どうなるのか、私にも分らなかった。
せめて、私は妻の手をとりたかった。それで、妻との間に結ばれているかもしれない、か細い糸を確かめたかった。
妻はそんな私の心を知ってか知らずか、Aさんたちが去って行ったゲートの向こうを、寂しそうな目で見つめていた。

追記:そのAさん一家と私たちは昨日、成田空港で再再会した(「子育て日記に書いています」)。4人に増えた子供たちと夫を伴ったAさんは、私たちと娘を見て、顔中体中で喜んでくれた。私はそういう彼女を見て涙ぐみそうになった。
自分たちのことを心配し愛してくれる人が、そこにいる。そのことに、心地よさを感じないはずがないではないか。



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